新お坊さんの智恵袋

どうげんが毎日発信〜きょうの広済寺・住職の予定情報をいちはやく!

まかないめしの役目


 客人が見えたら、まずお茶を出す。時間が昼どきや晩にかぶったら、おしのぎを出す。おてらには暗黙のきまりがあります。お施餓鬼、お彼岸の中日に行われる合同供養などの大行事のときはもちろんのこと、ふだんでも、お世話をしてくださるおてらの役員さんやスタッフと食事をします。業者さんが入っているときは、茶礼とお昼のみそ汁を出します。これは、業者の方にも、墓域や境内で、事故や間違いのないよう気遣ってほしいという、暗黙のうちの願いがあります。
 オフィス街や工業団地を昼ころに、車で走っていると、レジ袋にお弁当などを提げた方を見かけます。私も民間にいた頃はそうでした。まだ、若い頃で基礎代謝も高いのでさほど気にしないでいましたが、コンビニのお弁当に、味噌汁代わりにカップ麺など、好ましい組み合わせではなかったです。たまにかつて職場で一緒にいた人を、見かけることがありますが、体型の変わりように驚きます。
 このブログを運営しているはてなさんと広済寺には、ちょっと似ているところがあります。それはまかないをきちんと用意しているということです。数年前、はてなさんの事務所が大橋にあったとき、見学会に参加させていただいたことがありました。お昼はみんなで同じものを食べる。食べた後は、各自で洗う。この二つが実践されていたのです。私の知る限りですが、こうしたまかないシステムがあるのは、まだ名前が短かったころのメガバンク。支店に厨房があって、上司も部下も同じものを交代で食べると聞いたことがあります。
 一緒に同じものを食べれば、無駄がありません。昼休みは自由ですが、個々に買い物へ行き、レジで並び、・・という時間がもったいない。一緒に食べて、一緒に片付けたほうが、絶対ラクなのです。ケータリングのお弁当ももったいない。わざわざ給食の会社にお願いをして、メニューが多少かわっても、毎日、同じ容器を見ただけで飽きてしまいます。大きな会社、町工場、研究機関や研修施設など、組織になっている場所が、まかないシステムを導入し、みなさんが同じものを食べるようにすれば、環境にも負担が少ないし、相当な経済効果が生まれるはずです。
 なぜ多くの組織がまかないシステムをつくれないのか。じぶんなりに考えることがあります。一つには、世の中が豊かになりすぎたことです。お金があれば、好きなものを選べるからです。二つには、食に対する認知が、両極端であることがあげられます。・・・不勉強なじぶんには、適切なことばで、うまく表現ができないのですが、・・・星のマークがいっぱいつくようなお店は高級で、すばらしい。そこへはたまにお金をかけて出かけるもの。高級なものだから、料理人は男性。でも、ふだんの食事は、下々がつくるもの。そんな固定観念が消えないからではないでしょうか。私は、食とはみんなが関わるものだから、みんながめしたきをできるようにするべきだと考えています。
 じぶんが、おてらでまかないをつくっていても、「台所にたつなんていうのは、本来、女性のやることで、意味がない。常識が違う」と反発された過去があります。男女平等になって久しいのですが、まだまだこうした風潮は続くかもしれません。
 僧堂では、台所役(典座)というのは、みなさんの健康を司るわけで、一番、尊ばれる場所なのです。その影響を受けている私たちです。先の東日本大震災直後、多くの僧籍にある方々が支援に行きました。仮設住宅で炊き出しをしたり、がれきから火を焚き、お米を炊くくらいの、緊急でも対応できる力を持っています。
 この月初には、地震避難訓練が各地でありました。関東大震災で、首都圏は壊滅。伊勢原でも、ほとんどの家屋が倒壊し、半年以上、掘立小屋で暮らしていたそうです。直後には、雨が降り続き、着物や書き物もだめにしたようです。広済寺でもいろんな古文書や巻物を処分してしまったそうです。地盤を強くするために、ほうぼうのおてらは、三の宮地区から、竹を分けてもらい、植え、根を生やしていったと聞いております。この竹藪の根っこのおかげで、東日本大震災の日。広済寺の本堂は、震度5弱で、上下左右に大きくしなりながらも、倒れることなく、無事だったのです。
広済寺のみそはぎ園には古いかまどと鍋があります。ふだんは、庭のオブジェですが、非常時に活躍できるためにあります。トイレもあえて旧式を残してあります。災害時に強いのは、水と食糧と地べたが確保できること。自宅である程度、この3つが確保できるならば、家にとどまっていたほうがよいと思います。避難所となる学校に行っても、かえって混乱が先だと思います。井戸や畑のある農家さんが一番強いと思います。いつかはやってくる災害です。そのときに、「めしたきは下々のすることだ」などと言っていることはできません。日頃から、まかないくらい、なんとかつくれることは、トレーニング。食のありがたさを、普段から考えたいものです。