新お坊さんの智恵袋

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事務しごとの哲学

 事務屋さんになるには、鉄則があります。たたき台をつくる。細かいことはあっても、あまり瑣末なことにはこだわらないこと。でも、間違えていたら、曖昧にしないで、きちんと最後まで訂正することです。
 「おまえは事務屋だ」とよく言われます。これには、じぶんなりの過去があるのです。民間にいた頃は、リストラのはしりでして、これまで、上司に成績を報告するのには、じぶんが獲得してきたものをコピーすればよかったのですが、コピーすら取れなくなりました。ちょっとした郵便を出すのも、全部、管理。チェック。管理。チェック。・・・よほどこの方が、手間がかかっていると思っても、組織では、じぶんの発想は許されません。
 いちばん苦労し、かついまあるじぶんの原点をつくったのは、口座の移管作業だと思います。店舗の顧客の口座を移すという作業を、入社3年目で経験もないのにやりました。
 もともと、小さい店舗としてオープンした店に配属されたのですが、近隣の店舗にお客さんをそっくり移動したのです。ひとついじると、予期せぬところですべてが変わる事実をみました。これを企画した本部は、現場をわかっていない。わかっていないから、経験の浅い人間にやらせたのだと思います。
 でも、この経験はその後に、生きました。修行に入ってから、郵便番号の七桁化がありました。托鉢やお経でおつきあいのある方々の台帳やこれまでつかっていたはがきや封筒をどうしたらよいかで、わたしの意見を、僧堂の先輩方は取り入れてくださいました。
 空き寺同然だった、広済寺に入ったばかりの頃は、住所録や横判すらありませんでした。ただ、元・民間にいたからというだけで、神奈川県仏教青年会で財務は6年。「いやだ、いやだ」といいつつ、ことしは事務局です。広済寺では、老朽化した建物の改修があり、それに伴う膨大な事務があります。
 どんな事態になっても、それほど、みなさんに迷惑をかけずに、処理できたのは、冒頭あげた鉄則を守ったからだと思います。わたしたちの目的は、修行専一。作務です。作務とは、おてらの境内を維持する作業を意味します。
 「昼間は作務三昧であたりまえ。事務しごとは夜やればいい」という方がいますが、わたしは不可能だと思っています。事務しごとは、やればやるほど、それだけで、重いからです。でも徹底してやれば、5年、10年たって、確実に成果が出ます。それが楽しいし、成功体験となっているので、わたしなりの方法をとっています。
広済寺では、事務しごとの日、外しごとの日とわけるのです。集中してやると、予定を変更して、外のしごとばかりが連続することもあります。
 みなさんには「どうげんは事務屋」のイメージが強いのですが、本当に好きなことは草花を育てたり、はきめがつくまでそうじをしたりすることです。大切なのは、事務も作務も、本筋を守りつつバランスをとること。
「きょうは、どうデザインしようかな?」と朝、起きたら、毎日を楽しく過ごしたいものです。